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大阪地方裁判所 平成元年(わ)1912号 判決

本店所在地

大阪市北区南森町二丁目二番二号

株式会社西武ゴルフサービス

(右代表者代表取締役 石原壽雄)

本店所在地

大阪市北区堂島一丁目一番二五号

株式会社日比谷ゴルフ

(右代表者代表取締役 石原壽雄)

本籍

兵庫県西宮市西平町一七番

住居

同 西平町一七番八-三〇六号

会社役員

石原壽雄

昭和二三年六月一日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官宮下凖二出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社西武ゴルフサービスを罰金五〇〇〇万円に、被告人株式会社日比谷ゴルフを罰金五〇〇〇万円に、被告人石原壽雄を懲役二年六月に処する。

被告人石原壽雄に対し、この裁判が確定した日から四年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社西武ゴルフサービス(以下、「被告会社西武ゴルフサービス」という。)は、大阪市北区南森町二丁目二番二号に本店を置き、ゴルフ会員券の売買等を業とするもの、被告人株式会社日比谷ゴルフ(以下、「被告会社日比谷ゴルフ」という。)は東京都中央区銀座二丁目七番一一号に本店を置き(平成二年九月三日本店を大阪市北区堂島一丁目一番二五号に移転)、ゴルフ会員券の売買等を業とするもの、被告人石原壽雄(以下、「被告人」という。)は、両被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人は、

第一  被告会社西武ゴルフサービスの業務に関し、法人税を免れようと考え、

一  昭和五九年八月一日から昭和六〇年七月三一日までの事業年度における実際所得金額が七〇七五万二五七八円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、売上げの一部を除外するなどの方法により、その所得を秘匿したうえ、同年九月三〇日、大阪市北区南扇町七番一三号所在の所轄北税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の欠損金が五八九三万一六一八円で、納付すべき法人税額がない旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額二九六二万二一〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を全部免れた、

二  昭和六〇年八月一から昭和六一年七月三一日までの事業年度における実際所得金額が一億七五五八万八二三三円(別紙(二)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、前同様の方法により、その所得を秘匿したうえ、同年九月二九日、前記北税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が二三万六〇一一円で、これに対する法人税額が一六〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額七四九七万四〇〇〇円と右申告税額との差額七四九七万二四〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れた、

三  昭和六一年八月一日から昭和六二年七月三一日までの事業年度における実際所得金額が二億一六七八万三四三〇円(別紙(三)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、前同様の方法により、その所得を秘匿したうえ、同年九月二五日、前記北税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額がなく、納付すべき法人税額がない旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額九〇〇五万五八〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を全部免れた、

第二  被告会社日比谷ゴルフサービスの業務に関し、法人税を免れようと考え、

一  昭和六〇年六月一日から昭和六一年五月三一日までの事業年度における実際所得金額が一億一一四九万四三二〇円(別紙(五)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、売上げの一部を除外するなどの方法により、その所得を秘匿したうえ、同年七月二五日、東京都中央区新富二丁目六番一号所在の所轄京橋税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の欠損金が二六万二三〇八円で、納付すべき法人税額がない旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額四七二五万一八〇〇円(別紙(七)税額計算書参照)を全部免れた、

二  昭和六一年六月一日から昭和六二年五月三一日までの事業年度における実際所得金額が四億一八八万一四四四円(別紙(六)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、前同様の方法により、その所得を秘匿したうえ、同年七月三〇日、前記京橋税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が三八八五万三九九〇円で、これに対する法人税額が一五三三万三四〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額一億六七八〇万五一〇〇円と右申告税額との差額一億五二四七万一七〇〇円(別紙(七)税額計算書参照)を免れた

ものである。

(証拠の標目)

(注) 括弧内の算用数字は証拠等関係カードの検察官請求分の請求番号を示す。

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書三通(212ないし213)

一  被告人に対する収税官吏の質問てん末書二〇通(166ないし169、172、175ないし180、185、186、191、192、195、198ないし200、207)

一  石原大也(138)、本城憲司(139)、宮本邦男(二通、140、141)、井上茂(142)、白石曠志(156)、久保操(157)田中昌文(158)に対する収税官吏の各質問てん末書

一  押収してある総勘定元帳三綴(平成二年押第五七八号の一、二の1、2)

判示第一の一ないし三の各事実について

一  被告人に対する収税官吏の質問てん末書九通(170、173、181、193、196、201、203、205)

一  井上茂(二通、143、144)、好藤義之(155)に対する収税官吏の各質問てん末書

一  収税官吏作成の査察官調査書二三通(10ないし22、36ないし39、42ないし45、47、214)

一  収税官吏作成の査察官報告書(29)

一  北税務署長作成の証明書(9)

一  被告会社西武ゴルフサービス作成の証明書(8)

一  商業登記簿謄本(159)、閉鎖商業登記簿謄本三通(160ないし162)

判示第一の一、二の各事実について

一  収税官吏作成の査察官調査書(41)

一  収税官吏作成の査察官報告書五通(23、25ないし28)

判示第一の一の事実について

一  被告人に対する収税官吏の質問てん末書(184)

一  収税官吏作成の査察官調査書(46)

一  北税務署長作成の証明書二通(4、5)

一  収税官吏作成の脱税額計算書(1)

判示第一の二、三の各事実について

一  収税官吏作成の査察官報告書(24)

判示第一の二の事実について

一  収税官吏作成の査察官報告書二通(31、34)

一  北税務署長作成の証明書(6)

一  収税官吏作成の脱税額計算書(2)

判示第一の三、第二の三の各事実について

一  収税官吏作成の査察官調査書(40)

判示第一の三の事実について

一  木村隆に対する収税官吏の質問てん末書(145)

一  収税官吏作成の査察官調査書(35)

一  収税官吏作成の査察官報告書三通(30、32、33)

一  北税務署長の作成の証明書(7)

一  収税官吏作成の脱税額計算書(3)

判示第二の一、二の各事実について

一  被告人に対する収税官吏の質問てん末書一四通(171、174、182、188ないし190、194、197、202、204、206、208ないし210)

一  小倉正(146)、岡野新治(147)、大貫清子(151)、岡島久枝(152)、菊嶋正夫(153)、藤田恵三(154)、前野領二(215)に対する収税官吏の各質問てん末書

一  収税官吏作成の査察官調査書七通(55、56、75、77ないし79、84)

一  収税官吏作成の写真撮影てん末書二通(87、88)

一  被告会社日比谷ゴルフ作成の証明書(53)

一  京橋税務署長作成の証明書(54)

一  商業登記簿謄本二通(163、平成二年九月一九日付((弁護人請求分))

判示第二の一の事実について

一  被告人に対する収税官吏の質問てん末書(183)

一  収税官吏作成の査察官調査書四通(59、60、64、86)

一  収税官吏作成の査察官報告書二通(66、69)

一  京橋税務署長作成の証明書二通(50、52)

一  収税官吏作成の脱税額計算書(48)

判示第二の二の事実について

一  収税官吏作成の査察官調査書一四通(57、58、61ないし63、65、73、74、76、80ないし83、85)

一  収税官吏作成の査察官報告書五通(67、68、70ないし72)

一  京橋税務署長作成の証明書(51)

一  収税官吏作成の脱税額計算書(49)

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも法人税法一五九条一項に該当するので、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役二年六月に処し、情状により同法二五条一項を適用して、この裁判が確定した日から四年間右刑の執行を猶予することとする。

更に、被告人の判示第一の各所為はいずれも被告会社西武ゴルフサービスの業務に関してなされたものであるから、同被告会社については、法人税法一六四条一項により判示第一の各罪につき同法一五九条一項の罰金刑に処すべきところ、情状により同条二項に適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により合算した金額の範囲内で同被告会社を罰金五〇〇〇万円に処することとする。

また、被告人の判示第二の各所為はいずれも被告会社日比谷ゴルフの業務に関してなされたものであるから、同被告会社については、法人税法一六四条一項により判示第二の各罪につき同法一五九条一項の罰金刑に処すべきところ、情状により同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により合算した金額の範囲内で同被告会社を罰金五〇〇〇万円に処することとする。

(量刑の理由)

本件は、被告人が、被告会社西武ゴルフサービスの業務に関し、三事業年度にわたり、合計一億九四六五万円余りの、また、被告会社日比谷ゴルフの業務に関し、二事業年度にわたり、合計一億九九七二万円余りの法人税をほ脱したものであって、そのほ脱額は総計三億九四三七万円余りという多額にのぼるうえ、そのほ脱率も、被告会社西武ゴルフサービスについては、昭和六一年七月期が一〇〇パーセント、昭和六二年七月期が九九・九パーセント、昭和六三年七月期が一〇〇パーセント、被告会社日比谷ゴルフについては、昭和六一年五月期が一〇〇パーセント、昭和六二年五月期が九〇・八パーセントという、いずれも極めて高率であること、不正手段の態様も、各被告会社とも、売上げを除外するため、ゴルフ会員券の売買資金を公表預金と社員名義の裏預金に分け、裏預金による取引を簿外にしながら、人件費等の経費は公表取引の売上高から控除することにより、その所得のほとんどすべてを圧縮していたものであって、悪質であること、それにほ脱事犯の量刑の一般的傾向をも併せ考えるとき、被告人については、懲役刑の実刑に処することも十分に考えられる事案である。

しかし、更に考えると、各被告会社とも、不正手段の手口は、売上除外にとどまっていて、架空経費や水増し仕入れを計上したり、取引先を巻き込むような不正手段をとっていないこと、査察終了後、各被告会社とも修正申告を行い、本件ほ脱の本税、重加算税、延滞税及び本税の修正に伴う地方税の修正分も全て納付済みであること、被告人が本件を深く反省し、潔くその罪を認めていること、再びこのような事犯をおこさないよう経理体制を刷新したこと、被告人は若くしてゴルフ会員券の売買を手がけ、現在では全国的にみても大きな規模の会社にまで発展させた優秀な経営者であり、各被告会社にとって不可欠の存在であること、格別の前科もないことなど、被告人のために有利なないしは斟酌すべき事情も多々認められる。

このような事情にかんがみるとき、被告人を直ちに懲役刑の実刑に処することはいささか酷であると考える。そこで、当裁判所は、被告人については、その刑の執行を猶予することにする。

また、各被告会社については、ほ脱額が前記のとおり多額にのぼるうえ、ほ脱率が一〇〇パーセントないしそれに近い数値であって、いわば所得をまるまる隠したといっても過言でないことなどに照らすと、求刑どおりの罰金刑に処することも十分に考えられるが、各被告会社の窮状等を特に考慮して、それぞれ主文のとおりの罰金刑に処することにする。

(求刑 被告人につき懲役二年六月、各被告会社につき罰金六〇〇〇万円)

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 仙波厚)

別紙(一) 修正損益計算書

〈省略〉

別紙(二) 修正損益計算書

〈省略〉

別紙(三) 修正損益計算書

〈省略〉

別紙(四) 税額計算書

〈省略〉

別紙(五) 修正損益計算書

〈省略〉

別紙(六) 修正損益計算書

〈省略〉

別紙(七) 税額計算書

〈省略〉

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